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『ハングリー!』夢や生活を破壊する立ち退き:林田力

  1. 2012/03/18(日) 12:35:03|
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フジテレビ系ドラマ『ハングリー!』が、2012年3月13日に第10話「最後の客を最高の仲間と料理で」を放送した。最終回を前にして急展開になる。東急不動産だまし売り裁判のような不動産トラブルに苦しむ人々にとっては残念な展開になった。

ハラペコキッチンに解散の危機が迫る。麻生時男(稲垣吾郎)の誘惑には動じなかった山手英介(向井理)らであったが、意外なところに問題があった。大家・金沢亜矢子(矢田亜希子)からの立ち退き要求である。

この大家は味覚音痴という点で料理をテーマにしたドラマの価値の対極にある。立ち退きを迫る人物にネガティブなイメージを与える効果的な演出である。物件を管理する不動産業者の名前は阿久徳不動産であり、悪徳不動産と同じ響きという遊び心もある。

英介らは別の場所で営業を続けようと物件探しを始めるが、家賃や開店費用の問題で思うようにいかない。立ち退きによって商店主の夢や生活が潰れてしまうことも、立ち退かされた後に心機一転できないことも日本社会の現実を反映したリアリティがある。

東京都世田谷区では東急電鉄・東急不動産らの進める二子玉川ライズによって数多くの商店主が閉店を余儀なくされた(林田力『二子玉川ライズ反対運動』)。品川区の大井町の東急大井町線高架下の店舗は東急電鉄から立ち退きを迫られ、路頭に迷わせられようとしている(林田力「東急電鉄が大井町線高架下住民に立ち退きを迫る」)。

社会性のある展開であるが、提示された解決策には社会性もリアリティもない。店を潰すために画策した麻生の筋書き通りで終わってしまう。事前の宣伝で「ハラペコキッチンに解散の危機」と煽っておいて、本当に解散してしまうならば芸がない。

もともとフランス料理の格式を無視したロッカーのフランス料理というミスマッチがドラマの魅力である。フレンチの格式を無視している点は麻生から酷評され、それに乗せられて英介も高級店志向に走って仲間との関係にひびが入った(第7話「覆面調査員は見た!友情と恋亀裂!店は分裂」)。

しかし、英介は考えを改め、自分達の原点に立ち戻ることで危機を乗り越えた。ハラペコキッチンはフレンチの格式を求めず、ロックテイストのフランス料理店であると再確認された。それにも関わらず、最後で麻生の計画に乗って本格的なフレンチ・シェフを目指すならばドラマで提示された価値の論理矛盾になる。

麻生の立ち位置は主人公の厳しい導き手よりも、主人公を潰しにかかる本人は大真面目な道化役がふさわしい。麻生の渾身のプロポーズも主人公が歯牙にもかけないから笑いになるのであって、主人公が受けてしまったら二人して気持ち悪い精神世界に突入することになる。それを周囲の登場人物も応援するならば、カルト的な自己啓発の世界になってしまう。

大楠千絵(瀧本美織)の最後の食事のシーンは心温まる感動的な展開になったが、それは英介の経営するカジュアルな店だから成立する。麻生コーポレーションの経営する店では無理である。金持ち相手に高級料理を提供することが、これまでドラマが志向してきた料理人の価値ではない。庶民的な食いしん坊の千絵を喜ばせることは料理人の価値である。

麻生の計画に乗ってハラペコキッチンを閉めることは、もっともらしい言い訳で取り繕っても、自分達の提供した価値を失う敗北である。救いは閉店後に主人公が悔し涙を流したことである。焼け野原から経済大国にしてしまう前に進むだけの愚かなガンバリズムに囚われていない。タイトルにあるハングリー精神を貫けるか最終回の展開が注目される。
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