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『技師は数字を愛しすぎた』v 林田力 記者wikiレビュー

  1. 2012/06/12(火) 22:21:22|
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ボワロ&ナルスジャック著、大久保和郎訳『技師は数字を愛しすぎた』(創元推理文庫)はフランスの推理小説である。パリ郊外の原子力関連施設で技師が殺害され、核燃料チューブがなくなった。この核燃料チューブは爆発と放射能汚染でパリ市の多くの部分を壊滅できるものである。ところが、犯行現場に人が出入りした形跡がない。密室ミステリーである。

第二次世界大戦の記憶も残っている1958年に出版された書籍であるが、福島第一原発事故を抱える現代日本で読めば緊迫感は一層高まる。福島第一原発事故は原子力発電の安全神話を壊滅させた。確かに原子炉が相対的に頑丈にできていることは認めてもいい。しかし、どれほど格納容器が頑丈であろうとも、外部からの電源供給がなくなれば危機的状況に陥ることが福島原発事故で判明した(林田力「福島第一原発事故で世界中に脱原発の動き」PJニュース2011年3月23日)。

いくら格納容器を頑丈にしても安全は確保できない。現在の福島原発事故でも原子炉よりも核燃料プール倒壊の危険性が注目されている。その意味で巨大な施設を破壊するというような壮大なスケールではなく、人が抱えて持ち運べるような核燃料チューブで恐怖を描く視点は興味深い。

また、『技師は数字を愛しすぎた』が放射能汚染の危険性を抽象的に描いている点も興味深い。目に見えず、臭いもない放射能の害は想像しにくい。『技師は数字を愛しすぎた』でも深刻な事態になる可能性がある状況でも、現実感の乏しい漠然とした不安になっている。福島事故後に放射能汚染に敏感になった「放射脳」と揶揄される連中にとっては『技師は数字を愛しすぎた』の登場人物の言動は鈍感に見えるだろう。
http://hayariki.jakou.com/4/20.htm
しかし、福島第一原発事故後の日本でも放射能の害をめぐって情報が錯綜した。不安ばかりが一人歩きした面もある。意図的に危険性を煽るデマゴーグに乗せられたとの反省もある。その意味で『技師は数字を愛しすぎた』で描かれた漠然とした不気味さや不安感が正味のところとなるだろう。

肝心の密室殺人であるが、ステレオタイプなミステリー観ではルール違反と受ける向きもあるかもしれない。犯行時には誰も部屋に入らず、誰も部屋から出なかった。不可能殺人であり、捜査は行き詰まる。そこで発想を転換する。誰も部屋に入らずに誰も部屋を出ない状態での殺人が不可能であるならば、その前提を疑ってみる。この発想は新鮮である。(林田力)


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