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アランナ・ナイト『エジンバラの古い棺』v 林田力 wiki記者レビュー

  1. 2012/09/01(土) 10:10:04|
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アランナ・ナイト著、法村里絵訳『エジンバラの古い棺』(創元推理文庫)は英国ヴィクトリア朝を舞台とした歴史ミステリーである。エジンバラ市警の警部補ファロを主人公としたシリーズの2作目である。1作目は『修道院の第二の殺人』である。

エジンバラ城の崖下で発見された男の遺体を調べるうちに警官であった父親が追っていた事件が重なり、英国の歴史を塗り替える秘密も明らかになるサイドストーリーも恋愛や家族との交流があり、盛り沢山である。

ヴィクトリア朝イギリスは『シャーロック・ホームズ』など数多くの小説説の舞台として描かれてきた馴染みの時代である。しかし、本書にはヴィクトリア朝イギリスの既成概念から外れた魅力がある。

第一にスコットランドを舞台としていることである。日本人はイギリスと単一の国家のように認識しがちである。しかし、イギリスは連合王国United Kingdomであり、イングランドとスコットランドは別の国であった。そのスコットランド人の心情を本書で味わうことができる。また、ブリテン島に出稼ぎに来ざるを得ない貧しいアイルランド人労働者を描き、経済発展の負の面を直視する。

第二にヴィクトリア女王の不人気を直視する。ヴィクトリア朝は大英帝国にとって栄光の時代と受け止められがちである。そのためにヴィクトリア女王も偉大な国母と祭り上げられる傾向がある。

これに対して、『エジンバラの古い棺』では臣民のことを考えていないと噂される存在として描かれる。イギリスの兵士は「女王のために命がけで戦っているわけではない。彼らを動かしているのは、女王への愛ではなく命令だ」と説明される(104頁)。ここには愛国心などの言葉で美化され、歪曲された国家権力の真の姿がある。
http://d.hatena.ne.jp/hayariki2/

過去の王に対しても「下品で不快な男」「だらしがなくて不潔で、指先以外は滅多に洗わないものだから、ひどく臭かった」「物笑いの種になるほどの臆病者」と手厳しい(142頁)。臭いという外部に現れた体質と臆病という内面的な性質を同一人に重ねている点が興味深い。最低の人間に相応しい形容である。

ヴィクトリア朝はディズレーリとグラッドストンに代表される二大政党政治が促進された時代であった。保守主義と自由主義の路線対立があり、そのような多様性があることがヴィクトリア朝に自由なイメージを与えている。
http://www.hayariki.net/7/4.htm
ところが、『エジンバラの古い棺』には衝撃のラストが待っている。そこでは国家権力に都合の悪い事実を隠蔽するという点ではリベラル派の政治家であっても保守派と変わらない実態を浮き彫りにする。糾弾色はないものの、大英帝国の欺瞞を雄弁に物語る小説である。(林田力)


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