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池上永一『テンペスト』書評 林田力 wiki

  1. 2012/11/16(金) 20:29:08|
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池上永一『テンペスト』は19世紀後半の琉球王国を舞台とした歴史小説である。首里天加那志や聞得大君加那志、ノロなど琉球王朝の言葉が多用され、琉球王朝の雰囲気が伝わってくる。日本では江戸時代の幕末に相当する。日本と同様、琉球王国にも列強の船が出没するようになってきた。

性を偽って王府の役人になる女性・真鶴(仲間由紀恵)が主人公である。頭脳明晰な少女・真鶴は宦官・孫寧温と称して王府に出仕し、薩摩や清国、欧米列強の間に揺れる琉球を救うために活躍する。孫寧温は大奥に相当する御内原(ウーチバラ)にも手を入れ、破天荒な巫女・聞得大君に正体を見破られ脅迫されながらも、最終的には阿片の密売組織を摘発する。当時は現代以上にジェンダーが厳然と存在する社会で、女性が男性になりすますことの緊張感は現代以上である。

一般に琉球は平和的な王国であったが、薩摩藩によって侵略され、虐げられ続けたという固定的な歴史観がある。1993年のNHK大河ドラマ『琉球の風 DRAGON SPIRIT』が典型である。これに対して『テンペスト』では守旧派の頑迷さや王宮の権力闘争など琉球王国の醜い面も描く。その一方で、薩摩藩士に爽やかで良心的な人物を配置する。

米軍基地の大半を押し付けられているなど沖縄の現状を鑑みれば、大和に虐げられる沖縄という歴史認識は基本線として維持すべきものである。それでも琉球王国や薩摩について固定的な歴史観に捉われない作品が登場したことは、それだけ日本とは異なる独自の国家であった琉球王国の存在が当然の前提となった証拠である(林田力「男装ドラマ対決の意外な伏兵、仲間由紀恵のNHK『テンペスト』」リアルライブ 2011年7月20日)。

『テンペスト』で興味深い点は柵封体制を東アジアの国際連合のように捉えていることである。朝貢国は中国に一方的に従属するのではなく、国際社会のメンバーとして外交を展開する。日本では聖徳太子の「日出ずる処の天子、書を日没する処の天子に致す。恙無しや」以来、柵封体制に入らなかったことを誇りとする傾向がある。しかし、東アジアの国際社会から見れば偏狭な鎖国精神でしかない。NHK大河ドラマ『平清盛』でも中国との貿易によって国を富ませようとする清盛の革新性と体面にこだわって朝貢関係を否定する公卿の保守性を対比させている。

下巻はペリー来航から琉球処分に至る琉球王国の最後を描く。流刑に処せられたネイオンは側室・真鶴として王宮に戻る。ペリー来航の国難に対処するために孫寧温も赦免され、真鶴と孫寧温の二重生活を送ることになる。側室の立場では政治に全く口出しできないところがポイントである。真鶴にとっては才能を発揮できず、それ故に性を偽って孫寧温とにならなければならなかった。
http://www.hayariki.net/7/23.htm
これは女性抑圧的な制度であるが、一方で王朝の知恵でもある。昔から王朝の乱れは王妃や側室の一族の専横にあった。現代でも配偶者の口出しが相続紛争泥沼化の原因と指摘される(灰谷健司『相続の「落とし穴」 親の家をどう分ける?』角川SSコミュニケーションズ、2008年、58頁)。それ故に側室に政治的発言権を持たせないことは王朝の安泰にとって意味がある。

王朝の安泰という点で琉球王国の大きな特徴は聞得大君の存在である。一般に王の姉妹が就任する聞得大君は王国の宗教的権威である。政治的権威と宗教的権威の二元化と位置付けられるが、王宮内では王妃や寵愛を受けた側室を牽制する存在になる。『テンペスト』の大君はふてぶてしい存在で王妃に同情したくなる読者も少なくないだろう。しかし、王妃や側室の口出しが王朝の乱れとなった歴史を踏まえれば聞得大君の存在意義は大きい。


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